かざあかなつSS:「ツツジの思い出」

小説/SS

 ーあかりの高校卒業を機に交際を開始した、元担任の誠だったが、彼女のご家族に交際報告が出来ずにいた…。

 誠とあかりと、彼女の兄である葵の過去のお話です。 5月の思い出を編み込みながら綴ってみました( *´艸`)

追記:2025/2/18

久々に見返しました!懐かしい!読みづらい部分や意味合い等少し文章を修正しました。また画像まとめも良かったのですが、見づらかったのでおまけとしてページ下部にまとめ、ブログ記事として文章をまとめてみました٩( ”ω” )و

登場人物紹介

👇アイコンを押すと(葵以外)各キャラの紹介ページへ飛びます。


(SS内、回想時年齢→現年齢)

・夏野 葵(なつの あおい)27→41: 夏野家長男、あかりの兄

・風音 あかり(かざね あかり)18→32: 夏野家三女

・風音 誠(かざね まこと)25→38:高校の生物教師、あかりの元担任

・夏野 広海(なつの ひろみ):夏野家の母

・夏野 環(なつの かんな)22→36: 夏野家次男

・夏野 蛍(なつの ほたる):16→30 夏野家四男

イメージイラスト

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「SS:ツツジの思い出_イメージイラスト」

SS:「ツツジの思い出」

つつじ:躑躅
1 鮮やかな赤紫色の花が特徴的なツツジ科の植物の総称。桜が咲き終わる頃合いから初夏にかけて開花する。
2 花言葉には「節度」「慎み」「赤:恋の喜び」「白:初恋」等がある。

おもい―で:思い出
1 過去の体験を思い出すこと。今も印象に残って思い浮かべる、その事。


―いつご家族に交際宣言をするか…。

あかりが卒業してから一ヶ月。誠は一人自宅で思案に暮れていた。あかりの卒業を機に、交際を始めた二人だったが、誠は彼女の家族に交際している事を言い出せずにいた。

**

(誠さん、一体いつになったら、付き合ったって言っていいの?)

(もう少しだけ時間をくれ…。君のご家族にどう説明すべきか…可愛い娘を拐(かどわ)かした教師…なんてことになったら…。)

(大丈夫だってー。)

(お前は世間体を気にしなさ過ぎるんだよ…。)

(だって私の家族だよー?)

(んん…親御さん…特にお兄さんに殺されないか…。)

(葵にぃのこと?大丈夫だって!葵にぃは私の味方だもん!)

(…。とにかく、まだ言わないでくれよ。時が来たら、僕から言うから。)

(はーい。)

**

あかりのあの感じからして、僕との事は家族に筒抜けだろう…おそらく。いや、絶対そうだろう。まぁ、交際の事は言わない様に言ってあるから、それは守ってくれているだろうけど…。

ともかく、このままではダメなこともわかってる。

「…はぁ。そろそろ腹を括らないとな。」

 
大きく息を吸い、吐き出しながら一人覚悟を決める誠であった。

***

所変わって、夏野家。縁側に寝そべり、五月の夜風に吹かれながら、葵は庭を眺めていた。そんな彼にあかりが声をかける。

「ねぇ葵にぃ。」

「んー?」

「葵にぃはさ、歳の差とか気にする?」

「どした、急に。」

珍しく物鬱げな妹に、上体を起こして振り返る。

「歳が離れてるのって、そんなに問題なのかな…。世間体世間体って、そんなのわかんないよ…好きなだけじゃダメなの?」

引き戸にもたれ、廊下の木目を足でなぞりながら、小さな声で兄に問いかける。

「…。」

問いかけに対し、真直ぐな視線で見つめ返す葵。

「ねぇ、葵にぃ。」

「うん。」

「私がどんな人を好きになっても、応援してくれる?」

「するよ。」

「ソクトーじゃん。本当?テキトーに返してない?」

少し怒ったように顔を上げ、兄を見つめ返す。

「本当やって。あかりが好きになった相手だろ。じゃあなんも心配ねぇよ。な?」

「うん…。」

葵の返答に、少し気恥ずかしくなって再度廊下の木目に視線を戻す。

「本当の本当に味方になってくれる?」

「男に二言はねぇよ。」

「…汚名返上はなしだからねっ!」

葵の返答に満足したのか、いつもの勢いのまま部屋へ駆けていくあかり。

「お前それ、使い方違うからな〜。」

そんなあかりに苦笑し、再度寝そべり大きく息をつく。

…恐らく風音先生との事だろう。
前々からうるさく「先生が〜」と言っていたが、ここの所、音沙汰がなくなって心配していた。

失恋か成就か、どちらに転んだとしても、兄として支えてやろうと、そう決心する葵であった。

***

―交際告白の日。

あかりから家族にアポをとってもらい、今日この日を迎えた。家庭訪問の時と同じスーツに袖を通したが、その心持ちは全く別のものであった。

夏野家の敷居を跨ぐ。

ー紹介したい人がいるんだ、今度呼んでもいい?

そんなあかりの一言で来訪した誠の姿に、驚きを隠せない一同。ただ、葵だけは顔色ひとつ変えずに、彼を迎え入れた。

「お世話になってます、先生。」

「…こちらこそ、お世話になっております。」

にこっと挨拶を交わす葵に対し、彼の変わらない態度に、より肝を冷やす誠。

客間に案内され、全員が席につく。

一呼吸おいて、誠が口を開く。

「本日はお忙しい中、お時間を頂きまして、誠にありがとうございます。」

「…単刀直入に申し上げます。私、風音誠は、ご息女のあかりさんと、この春よりお付き合いをさせて頂いております。ご報告が遅くなってしまい大変申し訳ございません…!」

一気に話し、勢いよく頭を下げる。

そんな誠の行動に呆気を取られる一家。

「ま、誠さん…。」

あかりですら、彼の勢いに驚く始末。そんな一家の反応も顧みずに、誠は頭を下げたまま矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。

「あかりさんは学生時代の初期から私を慕ってくれていました。ですが学生時分の想い等は、一種の錯覚、尊敬の念と勘違いしていることが多いです。大人として正さなければならない、そう思い、教師として導いてきたつもりです。」

下げていた頭をあげ、手を震わせながらも一家の目を見据えて話す。

「ですが、彼女はこの3年間、ずっと私に向き合ってくれました。いつも突き放してばかりの、逃げてばかりいた情けない自分を、3年間も、ずっと、傍に駆けて来ては、笑いかけてくれました。」

「正直、私の方が彼女に救われていました。彼女の何気ない優しさ、明るさ、思いやり。きっとご家族の優しさが、彼女を作り上げたのだと思います。」

そうしてふっと目線を落とす。

「…私には家族がおりません。教師にもこの間なったばかりの新参者です。それでも、僕に向き合い続けてくれた彼女を、大事にしたいと、ずっと傍にいて欲しいと…、その為にはどんな努力だってしたいと、そう思える様になりました。…前向きに物事を考えられる様になったのも、彼女のお陰です。」

感極まってか、ぽつりぽつりと涙を溢しながら、想いを吐き続ける誠。
そんな彼の独白を一家は黙って聞いていた。

「…事後報告で申し訳ありません。ど、どうか、結婚を前提に、あかりさんとの交際を認めてはいただけないでしょうか…!」

最後にもう一度、勢いよく頭を下げる。

そんな誠に対して、口を開いたのは葵であった。

「―こちらこそ、不束な妹ですが、どうぞ宜しくお願いします。」

深々と頭を下げる。

驚いて顔を上げる風音。

「―良いんですか?」

「良いも何も、こんな馬鹿なやつ、こっちの方が良いんですかって感じですよ。」

フッと苦笑して返す葵。

「ひっどーい!」

「先生も変わり者だね。あかりねぇのどこがよかったのさ。」

葵の返答に、拗ねるあかりと、ケラケラと野次る蛍。

「ちょっ、ほたっ‼あんたね〜!」

「ちょっと!うるさいよ!」
 
あかりと蛍のやりとりを一括したのは、母の広海。

「…葵の言う通り、もらって頂けるだけでありがたいですよ。ねぇ?」

穏やかな表情で答え、葵に振る。

「そうそう。それにあかりの事をずっと見てきて下さった先生になら、安心して妹を任せられますよ。こんなにこいつのことを想ってもらえて、兄としてとても嬉しいです。」

「お兄さん…。」

「ただ、幸せにしろとは言いません。先の事を約束しろとも言いません。…ですが、妹を傷つけたり、見捨てたりだけは絶対にしないで下さい。辛い事も悲しい事も二人で話し合って、楽しく過ごしてもらえたら、それだけでいいですから。」

誠を見つめ、そう伝える葵。言葉の終盤に少し悲し気に呟く彼の表情を、広海は見逃さなかった。

(葵…。) 

 おそらく、幼い頃に蒸発した父に対する自身の想いを重ねているのであろう。申し訳なさと胸のつかえを感じながらも、広海は黙って聞きに徹した。

「…はい、約束します。ありがとう…ございます。」
そんな母子の想いとは別に、眼鏡をとり、目元を拭ながら、葵の一言を噛み締める誠。

「あかり、よかったな。」

環(かんな)が優しく声をかけ、彼女の頭をゆっくりと撫でる。

「…うん。」

いつもの明るさはなりを潜め、瞳を潤ませ頷くあかり。

そんな妹と、涙を拭う誠をみやり、すっと目線を庭に移す葵。

庭には青々とした葉群れと、鮮やかなツツジの華が美しく咲き誇っていた。

***

時は経ち、現在。いつもの様に親族で集まり、裏庭でBBQを行う夏野一家。

賑やかな中心から少し離れ、家の梁(はり)に体を預け、一人ちびちびとビールを飲む葵。
 
「お義兄さん。」

「おー、誠くん。」

会釈を交わし、持ってきたつまみを葵に渡して、隣に体を預ける誠。

「珍しいですね。お義兄さんが一人で隅にいるなんて。」

「ああ…、ちょっと花を見てたら、物思いにふけちゃって。」

そう言って庭の茂みに目線を移す。

「花…ツツジですか?」

「そうそう、毎年実家のツツジを見る度に思い出すことがあってさ。」

一緒になって茂みをみやる。青々とした茂みには、赤紫色の鮮やかなツツジが咲き誇っている。

「…もしかして、僕がここに、挨拶に来た日の事ですか?」

ツツジを見つめたまま、ボソッと呟く。

「そうそう。よくわかったね。」

少しぼんやりと話していた葵だったが、誠の返答に感心した様にパッと目を開く。

「僕もあの日、ご実家に咲いていたツツジがとても目に焼き付いていて。
毎年、ツツジを見る度に思い出すんですよね。あの時は本当に緊張しました。」

「はは、震えてたもんね。」

「だって、お義兄さんに殴られでもするんじゃないかって…。」

「え、そんなこと思ってたの?」

「あ…。今のは忘れて下さい。」

「それはできないなぁ~。」

肘で誠を小突き、先を促す。墓穴を掘った事を悔やみながら誠が続ける。

「…お義兄さん、あかりの三者面談の時にもいらしてたじゃないですか。お仕事も忙しいだろうに。お義兄さんにとって、すごく大事な妹さんなんだろうなと常々思っていたんです。
 そんな子を、担任が「下さい」だなんて、拐(かどわ)かしたって言われても仕方ないとか、世間が許さないだろうって、そんな風に考えていました。なんならお義兄さん半殺しにされたっておかしくないって。」

「なるほどねぇ…。そういやあの時、あかりがオレに相談してきたんよな。」

「え?」

「年の差の何がいけないの、みたいなそんな内容。好きなだけじゃダメなのって。多分、誠君と約束してたのかな、詳細は教えてくれなくてさ。」

「…。」

「あいつはアホだけど、明るくてまっすぐで、見ていて飽きないよな。」

「そうですね…。彼女の明るさと優しさには幾度となく救われました。」

「まぁ、それとおんなじ位、あいつも救われてると思うよ。」

「そうですかね…。」

「うん。オレが言うんだから間違いないって。なんだって、オレはあいつの一番の味方だったからさ。まっ、今は誠君が一番だろうけどな。」

ニカっと笑って返す。

「…はい。」

そんな葵の笑顔を気恥ずかしそうに、しかししっかりと頷いて返す誠。

「あいつ鬱陶しいし、面倒くさいとこ多いし、アホだけどさ、
まぁ、これからも宜しくしてやって下さい。」

目を伏せ、頭を下げる夏野。

「こちらこそですよ。これからもお願いします、お義兄さん。」

合わせて頭を下げる誠。

「ありがと。んじゃ、これからにむけて乾杯!」

「…乾杯っ」

互いに顔をあげ、ビールで乾杯を交わす。

「―あっ!いたいた~!ちょっと二人して隅っこで何してるのよ~‼」

遠くからあかりが声をかけて走ってくる。

「ん~?男同士の秘密のは、な、し!」

夏野がけらけらと返答する。

「は~っ、なにそれ~うっざ~!変なこと言ってないで、食材運ぶの手伝ってよ!ほら誠さんもお願い!」
「はいはい。」

二人してあかりに背を押され急かされる。目線を合わせると、ふっと笑みが零れる。

「ちょっと、なに笑ってるのよ~!」

「なんでもねぇよ!」
「なんでもないよ!」

三人を見送るかの様に、爽やかな風が吹き抜ける。風薫る五月の出来事であった。

あとがき


・交際後の誠とあかり、葵の話でした。自分の親族がツツジの咲く季節に結婚式を挙げていて、道中に咲いていたツツジの茂みがやけに印象に残っていまして。ツツジを見る度に結婚式を思い出す記憶を元に、今回の話を考えてみました。五月は個人的にかざあかの月かなと思っていて、あかりの卒業後の話としたらいい感じにまとまりそうと思い、かざあかと葵の話にしてみました。

・サブキャラメインの小説は楽しいですね!メインキャラとの掛け合いも、よりキャラの深みが出せて好きですね~。あとは葵が兄兼父親代わりをしている描写が描けたので満足です。葵が誠に伝えた「見捨てないであげて。」という台詞を出せたのも、個人的には気に入っています。葵は幼い頃に父に捨てられており、それが彼のアクチュアリーかつネガティブポイントでもありました。その重要な想いを、誠に前向きな約束として取り付けるあたりが、人間が出来てますよね、葵は。やっぱすげーやつだよお前は~メイン四人の中で唯一ぶれない常識人だよ(笑)

おまけ:過去に小説メーカーで作成したSS

前に、前述のSSを小説メーカーでページにしたものです。画像をタップしていただくと拡大表示されます🔍

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